ヒトが初めて血圧を測定したのは18世紀初頭のことで、馬の頚動脈に挿入した金属の管を垂直に立てたガラス管と接続して、どこまで血液が上がるかを調べる実験を行ったイギリス人牧師スティーブンス・ヘイルズの功績です。彼は血液が心臓の拍動により上下することや、呼吸や体の動きによる変化にも気づいただけでなく、血液を体から抜くことで血圧が低下することも記録しています。普段は、直接血管内にカテーテルを入れずに、腕に血圧計を巻いて測ります。この原理を考え出したのは、イタリア人医師リバロッチで、血圧計で腕を少しずつ圧迫し、手首で脈が触れなくなった点を収縮期血圧(最高血圧)とするものです。彼の名にちなんで日常病院で目にする水銀マノメーターとカフが一体になった血圧計を、リバロッチ型血圧計と呼びます。
1905年には、現在と同様に聴診器を使って収縮期血圧と拡張期血圧(最低血圧)を測定する方法がロシアの血管外科医コロトコフによって考案されます。これは現在でも広く用いられている方法で、原理は次のようなものです。腕が強く圧迫されると動脈の流れは遮断されますが、収縮期血圧以下になると少し血液が流れ始めるので、血管内に乱流が起こり音が聞こえるようになります。さらに圧迫を解除し拡張期血圧以下になると血流がスムーズになり乱流がなくなるので音が聞こえなくなります。普段我々は聴診器を使ってこの音(コロトコフ音と呼びます)を聞いて、収縮期血圧と拡張期血圧を決めているのです。
最近では家庭にも普及している自動血圧計は、心臓の収縮によって起こる血管の振動が、血管雑音の発生と消失とほぼ同じタイミングで変化する性質を利用して、これを圧力センサーを使って測定しており、オシロメトリック法と呼ばれています。
現在では高血圧は治療しないといけないと広く知られていますが、20世紀の初めまでは血圧は下げてはいけないものと考えられていました。これは、高血圧は腎臓が悪くなる結果起こるのであると19世紀から考えられてきたためです。つまり悪くなった腎臓に血液を送り込むためには高い血圧が必要であり、血圧を下げると腎臓がさらに悪くなると考えられていたのです。20 世紀になり、腎臓が正常でも高血圧が起こり、高血圧患者を経過観察すると心不全や脳卒中や腎不全が多くなることがわかりました。血圧を下げても副作用がないか分からないので、重症で長生きできそうもない人に治療が試されました。1925年に米国の脳神経外科医アドソンが、腰にある交感神経節を切除する治療を行います。薬物治療が始まるのはその10年後で、高圧利尿剤や自律神経に作用する薬物が中心となります。今では、様々な薬がありますが、その背景には数多くのドラマがあったのです。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第523号 平成17年4月15日
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