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院長コラム

Vol.13 外科の始まり

 外傷には有史以前から様々な処置が行われていました。傷に植物の葉や動物の肉や糞を当てる習慣は各地にありました。クモの巣を傷に詰めるのは14世紀まで続き、戦場では兵士のためにクモの巣を常備していました。焼けた石や針を用いた止血法は電気メスの元祖と言えます。傷を縫うことは、アフリカで植物のツルとトゲを使って行われています。また、南米では昆虫に傷を咬ませて傷を合わせ、その瞬間に昆虫の首を切断し、そのまま固定するという方法がありましたが、現代の自動縫合器に受け継がれています。骨折の固定も行われ、木の枝や樹皮を副木としたり、粘土でギプスのようなものも作っていました。また、メキシコでは骨の内側(骨髄)にもみの木を刺して固定するという、現代の髄内釘(ズイナイテイ)のもとになる治療も行われています。さらに少なくとも紀元前3000 年には、頭蓋骨に穴をあける治療が行われています。

 古代インドでは、メスやハサミなどの手術器具の早くから発達し、患者をアルコールで酩酊状態にして、腸切除も行われています。膀胱を切開して結石を取り出したり、白内障の患者から眼の水晶体を取り除いたりもしていました。また、現代の形成外科に相当する分野も発達しますが、これは魔よけのために付けたピアスが化膿して耳が変形することが多かったことや、盗みの罰として鼻を切り落とすというインドの習慣に起因しています。

 医学が体系化されるのは古代ギリシアで、その中心的役割を果たすのが、病気に「原因と結果」という概念を打ち立てた医聖ヒポクラテスです。骨折でずれた骨は牽引してから固定し、頭部外傷では基準を設けて頭蓋骨に穴をあけ、痔の手術を今日とほとんど同じように行い、針を刺して腹水や臓器の中に貯まった膿を排出させる等々、その後長く受け継がれる手技を完成させます。手術の前には爪を切り、よい照明の下で手術をすること勧め、左右の手が同じように使えるまで練習することも強調しています。さらに医師としての高い倫理観を要求し、「何よりもまず害をなすな」という、今日でも再三引用される教えを残しています。医療者にとって、「人生は短く、技術は長い。機会はつかの間で、経験は惑いを生み、判断は難しい」というヒポクラテスの言葉に勝る教えはありません。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第545号 平成18年3月15日 掲載

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