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院長コラム

Vol.35 『患者様』と呼ばれてうれしいですか?

 病院で『山田さん』ではなく『山田様』と呼ばれることがありませんか。また、『患者さん』ではなく、『患者様』という言い方も珍しくなくなりました。私は病院で仕事をしていますが、『患者様』という言葉は使いません。理由は、日本語としておかしいだけでなく、偽善を感じるからです。

 2007年に雑誌「日経メディカル」が過去1年間に医療機関にかかったことのある1200人に対して行ったアンケートがあります。『患者様』をどう思うかという問いに対して、「好感が持てる」と答えたのは6.8%、「持てない」が32.3%、「どちらとも言えない」が60.8%でした。好感が持てない理由としては、@患者は客ではない、Aへりくだる必要はない、Bうわべだけ、Cよそよそしい、D日本語としておかしい、が上位を占めました。

 『患者様』は日本語としておかしいという意見は少なくありません。国語学者の金田一春彦氏は著書「日本語を反省してみませんか」の中で、「『患者』という言葉自体がすでに悪い印象を与えるため、いくら『さま』をつけてもらってもうれしくない。いくら頑張っても敬うことにはならない」と述べています。また、 NHK放送文化研究所の柴田実氏は、お客・神・ご先祖など一般的に上位にあるとされる呼称には『様』を付けるが、下位にある呼称にはつかず、上位下位どちらとも断定できない中間的な呼称につけると抵抗感が生じるという意見です。つまり、『被災者』や『けが人』などのあまりなりたくない立場の人に対して使う敬称ではないということです。

 そもそも、いつ頃から、そしてなぜこんな呼び方をするようになったのでしょうか。1990年代後半から、患者本位の医療サービスの向上を意識して、一部の病院で使われ始めたのですが、2001年に厚生労働省が出した国立病院のサービスに関する指針に、「患者の呼称は、原則として姓(名)に様を付する」という内容があり、その後急速に広まったようです。これが、拡大解釈され『患者』という一般の名詞にまで付けられるようになりました。

 医療はサービス業の一種で、消費者である患者は『お客様』であるという論理が、医療の受け手にも送り手にも、近年急速に広がりました。本当に患者さんは消費者で、医療は電気製品と同等の商品でしょうか。実は、この問題は現代の「医療崩壊」と密接に関係していると思うのですが、それはまた次の機会に。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第619号 平成21年4月15日 掲載

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