「紫外線対策は大丈夫?」という言葉を耳にする季節になりました。紫外線は、急激な日焼けでヤケドになり、慢性的にはシミやしわの原因になります。また、皮膚癌を増やすことも知られ、悪者のイメージが定着しています。しかし、地球上に生命が誕生し35億年以上にわたって降り注いできた紫外線は、本当に「百害あって一利なし」なのでしょうか。今日は紫外線のよい影響を考えてみましょう。
まず、紫外線は免疫力を高めることが知られています。紫外線を浴びると皮膚でビタミンDが作られます。ビタミンDは、マクロファージという免疫細胞を活性化しますが、牛乳・卵・椎茸などの食事からだけでは不足しやすく、紫外線を浴びることで補えます。昔の結核の治療に「安静」「栄養」と並んで「日光浴」があったのは、このことが経験的にわかっていたからでしょう。
次に、多発性硬化症や1型糖尿病(若い時期に発症し一生インスリンの注射が必要な糖尿病)は、緯度の高い地域に発生しやすいことが知られています。米国で一卵性双生児の一方を子供の時にできるだけ日光を浴びさせたところ、多発性硬化症の発生率が57%も低下しました。フィンランドでは、子供にビタミンDを与えることで1型糖尿病の発生率が80%も低下しました。また、2型糖尿病(カロリーの取り過ぎでおこる普通の糖尿病)も、ビタミンDとカルシウムを多く摂っている人ほど少ないという米国の研究があります。つまり、このような疾患は紫外線を浴びることでなりにくくなる可能性があるのです。
さらに、血圧は緯度の高い地方の人ほど高いのですが、ビタミンDは血管のカルシウム代謝を調節し、血管が収縮しすぎないようにするので、血圧を下げる可能性があります。東北地方で脳卒中が多いのは、塩分の摂り過ぎが原因といわれてきましたが、紫外線不足も影響しているかもしれません。
では、癌との関係はどうでしょうか。大腸癌・乳癌・前立腺癌・卵巣癌では、日光の照射量やビタミンDの量が多くなるほど癌による死亡率が低いという報告がいくつもあります。英国の北部と南部で全ての癌による死亡率を調べた研究では、北部の方が倍くらい高く、しかも北部の人が南部へ移住すると死亡率が下がることも知られています。この差は、喫煙や肥満など生活習慣病が同様な者でも見られるため、浴びる紫外線の量により生じると考えられています。実際、ビタミンDの量が増えると、多くの癌は減ります。例外は悪性黒色腫という皮膚の癌と脳腫瘍の二つです。
以上のように紫外線には有用な面が数多くあります。単純に紫外線を避けるのではなく、うまく浴びる方法を考えた方がよさそうです。
参考文献
高田明和著 『健康神話にだまされるな』 角川書店, 2008年
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第623号 平成21年6月14日 掲載
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