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院長コラム

Vol.39 「有効な癌検診」はどの程度有効か?

 癌は日本人の死因の1位で、年間30万人以上(およそ3人に1人)が癌で死ぬ社会に私たちは生きています。中でも大腸癌や乳癌は増加傾向にあり、公費の助成を受けた集団検診が勧められています。有効であると言われている癌検診はどの程度有効なのでしょうか。乳癌検診を例に考えてみましょう。

 毎年我が国では、約4万人が乳癌になり、約1万人が亡くなっています。日本乳癌学会は、50歳以上の女性にはマンモグラフィーというレントゲン検査による検診を強く勧め、40歳以上も有用であるとしています。欧米の研究によると、自己検診や医師の診察による検診には効果が証明されず、マンモグラフィーによる検診は50歳以上の女性に有用性が高いとされています。

 検診が有効であるというためには、癌をたくさん見つけるだけではダメで、検診を受けた人の方が、受けなかった人より、その癌で死ぬ数が少なくならないといけないのです。欧米のいくつかの研究を総合して30万人以上を13年間にわたり調べたところ、マンモグラフィー検診を受けた人の乳癌の死亡率は0.32% であったのに対して、受けなかった人では0.42%でした。つまり、0.1ポイントの差があったわけです。これは別の見方をすると、1039人が検診を受けると乳癌で死ぬ人が1人減るということになります。意地悪な言い方をすると、「1038人の無駄な検査によって1人が救われる」ということなのです。有効性が高いと言われている検診でも実はこの程度なのです。米国より乳癌が少ない日本では、効果はこれよりさらに低いでしょう。

 癌検診を受ける側は、早期に発見し早期に治療することで癌では死なないことを期待します。ただ、検診をする側の目的は、集団内での癌を減らすことです。 1000人が検診を受けると1人が死ななくなるということは、1000万人が受けると1万人の癌死が予防できるので、大きな効果と言えるのです。

 検診には短所もあります。マンモグラフィーによる被爆で乳癌は少しだけ増えます。ただ、効果がそれ以上にあるのです。また、検診を受けたがために、結果的には無駄な検査や手術が必要になることもあります。勘違いしないでください、検診など受ける必要はないと言いたいのではありません。以上のようなことをよく考えて受けるかどうか決めて欲しいのです。

参考図書

名郷直樹著 『治療をためらうあなたは案外正しい EBMに学ぶ医者にかかる決断、かからない決断』 日経BP社, 2008年

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第629号 平成21年9月15日 掲載

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