風邪かなと思って医療機関を受診すると、問診と診察で診断され、薬が出ることが多いと思います。しかし、実は風邪を治す薬はありません。インフルエンザウイルスに効く薬はありますが、風邪の原因になるウイルスに効く薬はありません。風邪薬は、解熱剤や咳止めや鼻水をとめる抗ヒスタミン剤などを混ぜたもの (総合感冒薬)が多く、医療機関では個別に処方することもあります。つまり症状を緩和するもので、根本的に治すものではありません。最近では市販薬も医療機関で処方されるものと差がなくなってきました。
でも抗生物質は市販されていないという疑問があるかもしれません。抗生物質は抗菌薬や抗生剤とも呼ばれ、細菌を抑える働きがありますが、ウイルスには効きません。確かに風邪と似た症状で細菌感染を起こしていることはあります。例えば、のどが痛くて高熱があるときは扁桃腺に細菌感染が起こっていることがあり、このような時には抗生物質は必須です。ただ、だからといって全ての風邪に使うのは利益が少なく不利益が多いのです。それは副作用だけでなく、乱用すると薬の効かない細菌(耐性菌)を作り出して、将来本当に抗生物質が必要な時に効かないことが起こりえるのです。
日本人は薬が大好きなわりに、自分が使っている薬の名前はおろか効果も知らない人が非常に多いのですが、これは、日本が誇る国民皆保険制度の負の一面でもあるのです。普通は何もしなくても治るので、薬を出さなければよいのですが、その説明には時間と根気を要します。たくさんの患者さんが待っていると、つい妥協してしまうことは少なくありません。金儲けのために処方しているのではという指摘は、薬価が引き下げられた現代においては的外れです。
風邪では、レントゲンや採血に異常は見られません。寒い中、大病院に行って、無駄な検査をして、無用な薬をもらって帰り、病人の中で長時間待たされたために病気をうつされるという冗談のような話はありえるのです。とりあえずは水分を多めに摂って、自宅で安静にしてみましょう。もちろん、これまでに経験したことのない症状がある場合や何日もよくならない場合は受診すべきです。高熱が続くと小児や高齢者は脱水になりやすく、また小児はけいれんを起こすこともあります。解熱剤はアセトアミノフェンという薬が最も安全と言われますが、熱自体がウイルスを排除する手助けをするので、ただ下げればよいというわけではありません。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第637号 平成22年1月15日 掲載
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