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院長コラム

Vol.56 偽薬(プラセボー)の効用

 ある薬が有効であることを証明するのは、調べようとする薬を、効果がないとわかっている偽薬(プラセボー)と比較して、明らかに差があることを示すのが標準的な方法です。実は、プラセボーでも20%〜40%の人に効きます。「治療している」という状況におかれると、それくらいの人たちには効いてしまうのです。梅肉エキスをソーダで割って「梅酒サワー」と言って飲ませると、酔っぱらう人が結構いるということです。

 このプラセボー効果を実際の治療に応用できないかというのは長い間の課題でした。「よく効く薬です」と言って飲ませるのは、患者を騙すことになるので、倫理上許されません。ところが昨年末に米国のハーバード大学から面白い研究結果が発表されました。「プラセボーを飲んでもらいます。プラセボーが効果を上げる患者がたくさんいます。あなたにも効果があるかもしれませんので1日2回飲んでください」とプラセボーであることをはっきり告げて、無治療群と比較したのです。対象疾患は、過敏性大腸症候群という心身症的要素の強い疾患で、これまでも40%程度がプラセボーで症状が改善することが知られていましたが、この研究では3週間後の判定でなんと6割の患者に効果が見られたのです。

 今回の研究では無治療の人も35%がよくなっていることから、プラセボーが効果を上げた鍵は、医師と患者との良好な関係にあったのではないかと推測されています。つまり、「プラセボーが効くという膨大なデータが存在する」ことを納得させた上で、薬を飲む「儀式」を励行するように説得したり、症状の変化について頻繁にかつ細かに聞いたりしたことが寄与しているのではないかということです。患者と医師の信頼関係が如何に重要かがわかるお話しです。ということは逆に、医師と患者の関係が良好でない場合は、効くはずの本物の薬でも効かなくなる危険性があると言えるかもしれません。

 偽医者が見つかったときに、患者から「とてもいい先生だった」という評判が紹介されることがあります。偽医者は、専門的な知識や技術がない分をカバーしようと、患者の話を親身に聴き、ていねいに説明することが多いでしょう。信頼している偽医者が行う医療は、信頼していない本物が行う医療より有効なことはありえます。私には笑えない話ですが、プラセボーを使うことで医者の善し悪しも判定できるかもしれません。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第663号 平成23年2月15日(火) 掲載

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