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院長コラム

Vol.58 大災害時の医療支援の難しさ

 東日本大震災で現地入りした友人や同僚の話と、7年前の中越地震での自分の経験を元に大災害時の医療支援について考えてみたいと思います。

 震災直後から多くの医療者が支援のため現地に入っていますが、今回は行政機能が失われた自治体が多く、対応が難しかったようです。私の友人の医師が某県庁に連絡したところ、各市町村に問い合わせてくださいという返事だったそうです。そのような中で、市町村と医療グループが1対1で結びついた場合は、うまく機能したようです。今後はこのような連携を調整する方策を整備すべきだと思います。

 他のボランティア同様、医療支援に入る際に大事なことは、「自分の身は自分で守る」ということです。現地に入る交通手段を確保し、数日分の食事を持参し、避難所で寝る準備は最低限必要です。丸腰に近い状態で現地入りして、どこの組織にも属せず、何もできなかった医療者が今回も少なからずいたようです。国レベルでの一元的な管理は絵に描いた餅ですが、ある程度は組織化が必要です。

 1ヶ月が経過し現地の医療も復旧しつつあります。今後は元の体制に戻すための援助が中心になりますが、今回のような大災害後に最も重要なことは、地元の医療機関の負担を減らすことです。電気と水道のない避難所生活を高齢者や小児などの弱者が長期間強いられると、病気が増えるのは明らかです。病人を受け入れる現地の医療機関を応援することは必要ですが、病人を作らない体制作りの方がより重要で効果的です。そのためには、ある程度は強制的にでも劣悪な環境から弱者を公費を使って移動させることが必要です。震災直後には官房長官も「疎開」を口にしていましたが、その後大規模に行われたという話はほとんど聞こえてきません。

 日常業務を中断して被災地に長期間留まることのできる医者はほとんどいませんが、患者が今より1割増えても大丈夫という医者なら相当数います。実現可能な応援を長期的に行うことが、復興に何年も要する今回のような大災害には必要なのです。市町村レベルで自治体と自治体が結びつく形での集団疎開を全国規模で行うことの意義は、教育などの医療以外の面から見ても大きく、復興事業も効果的に進むはずです。日本中にいる「義援金以外にできることがない」と嘆いている人が、少しずつだけれど長期的に協力する体制こそが、真のオールジャパンではないでしょうか。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第667号 平成23年4月15日(金) 掲載

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