原爆被爆者を調べた結果、年間100mSv(ミリシーベルト)以上では被曝量に比例して癌死は増えるが、これ以下では影響がないと言われてきました。政府はこの見解を現在も採用していますが、 国際放射線防護委員会はこの考え方を既に否定し、100mSv以下でも癌による死亡は増えるとしています。実際、15カ国の原発従事者40万人を追跡した調査は、10〜50mSvでも比例関係があると結論しています。
その一方で、少量の被爆は健康によいと言う専門家もいます。チェルノブイリ事故後に増えたのは小児の甲状腺癌だけで、今回の事故ではその1/10程度しか放射性物質が放出されていないので心配ないという論調もあります。しかし、ソ連が崩壊し綿密な調査が行われていないことは注意すべきです。それだけに、今回の被爆の長期的な影響は世界中が注目しているはずです。
私は無用な被爆は極力避けるべきと考えます。 特に影響が大きい小児への被爆は最小限に抑える義務が大人にはあるはずです。ところが、震災後に文部科学省が各学校長に宛てた文書には、年間100mSvまでは健康に被害はないと書かれており、その後福島県の小中学校の屋外活動を制限する限界放射線量は、年間1mSvから20mSv(病院の放射線技師の基準と同等)に引き上げられました。
どの癌が被曝によるものかを区別する方法はありません。日本は2人に1人が癌になり、3人に1人は癌で死ぬ社会です。 高齢者は癌になっても、今まで長生きしたのだから仕方がないと考えた方がお得です。 実際、 チェルノブイリでの最大の健康被害は、癌ではなく、ヤケになった人たちが酒を飲み過ぎて身体をこわしたことです。 幸い50歳を過ぎると放射線による発癌性は劇的に低下します。むしろ大人や高齢者は子供や妊婦を守る役目を果たすべきなのです。
原発従事者への調査結果に基づいて計算すると、年間100mSvの被爆によって癌で死ぬ人が約一割増えることになります。これを人口200万人の福島県にあてはめると、癌死が一年に600人増えるということで、小さな影響とは言えません。問題は、より慎重な姿勢であるべき社会集団を管理する立場の人が、異常に楽観的であるということです。彼らは自分の子供や孫を原発周辺に移住させられるのでしょうか。結局、我々は自ら学び自ら考えて行動するしかないのですね。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第671号 平成23年6月15日(水) 掲載
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