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院長コラム

Vol.62 がんばっている患者に「がんばって」はイエローカード

 東日本大震災以来「がんばる」ほどよく使われている言葉はないように思います。その語源は、「我を張る」と「眼張る(がんはる)」の二つの説があり、前者は「自分の考えを押し通す」、後者は「一定の場所から動かない」から、現在の意味になったということです。 医療現場でも医療者や近親者から患者さんに向けて頻繁に投げかけられますが、私はこの言葉は術後の患者さんがリハビリをする前などの限られた場面でしか使いません。

 「がんばろう!」で一番に思い浮かべるのは、政党や組合の集会の最後に拳を突き上げて連呼する姿ですが、いい歳をしてよく恥ずかしくないものだと感心します。また、スポーツや勉強でも、本当にがんばっている人にもっとがんばれというのは逆効果だとも思います。

 もし私が病の苦しみ耐えているときに、他人から「がんばれ」と言われたら、「何をこれ以上がんばるのか」と腹を立てるような気がします。だから私は、治らない病気で苦しんでいる患者さんや辛い治療に耐えている患者さんに、この言葉を使う気になれません。むしろこういう人たちには、「今はがんばってはいけません」と話しています。苦しいときは弱音を吐き、泣きたいときは泣き、医療者やまわりの人に頼ればいいのです。

 医師でもあり作家でもある里見清一さんは著書「希望という名の絶望」の中で、私と同じような意見を述べています。その中で彼は「がんばって」と言われることがうっとうしい理由を2つを挙げています。まず、困難に耐えて努力すれば成果が出るということは、裏を返すと成果が出ないのは本人の努力が足りないことを突きつけられるようだから、もう一つ、たとえ成果が得られなくてもがんばること自体が重要だからと第三者に価値判断を押しつけられるようだからと。がんばるのは自分であって、他人に強制するものではないということです。もちろん、自分もがんばりすぎない方がよいでしょうね。

 では、そういう患者さんを医者はどのように励ますべきか、里見さんは、期限を切ることと具体的に話すことがポイントであると指摘しています。例えば、抗癌剤で吐き気が強い人には「あと2〜3日でよくなります」、強い痛みを訴える人には「この薬で24時間以内に痛みは減るはずですが、もしよくならなければ次はこうします」という具合です。遥か先のバラ色の未来よりも目の前にある一里塚を指し示すべきだということです。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第673号 平成23年7月15日(金) 掲載

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