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院長コラム

Vol.73 ポリオワクチンのジレンマ

 今年の9月からようやく不活化ポリオワクチンが導入されることになりました。ポリオ(急性灰白髄炎)は、小児麻痺とも呼ばれ、口から感染したポリオウィルスにより脊髄が侵されて運動麻痺が起こります。治療薬はなく、呼吸麻痺を起こすと死に至ることもあり、患児の10〜20%に運動障害が残ります。ノーベル物理学賞の小柴昌俊氏もその一人です。

 予防対策は、まず病原性をなくしたウィルスを注射して免疫をつける不活化ワクチンが1955年に米国政府に認可されました。その後ウィルスの毒性を弱めて口から飲ませる生ワクチンも米国で開発されましたが、治験は当時冷戦状態だったソ連で1000万人の子供たちを対象になされ、効果が確認されました。安価で、注射が不要な経口投与であったため、WHOもすぐ承認し急速に広まりました。かつて年間数十万人いた患児が、2011年には650人に減ったのは生ワクチンのお蔭です。

 我が国では1960年の大流行に、ソ連とカナダから生ワクチンを緊急輸入し乗り切ることができました。この経緯を映画化したのが松山善三監督の「われ一粒の麦なれど」です。以後、世界に先駆けて全国一斉の生ワクチン接種を行い、我が国では自然界に存在するウィルスによる発症は1980年を最後に確認されていません。

 生ワクチンでは弱毒化されたウィルスによってポリオが発症することが500万回に1回程度あり、過去10年間で15人に麻痺が残ったと認定されています。先進国で今も生ワクチンを用いているのは日本だけですが、不活化ワクチンが使えることが決まったため、1年半前には99.4%だった生ワクチン接種率が、75.6%に低下しています。この状態で、もし外国からポリオウィルスが持ち込まれたら、昔のような流行も懸念されます。また、生ワクチン接種者からの感染の危険性も否定できません。そのため認可に先立って神奈川県は希望者に輸入ワクチンを提供しています。また、この動きを推進する医師グループもあり、県内でも2つの医療機関で実施しているようです。しかし、原則として自費(1回4千〜6千円)で、未承認ワクチンなので副作用被害の公的な補償は受けられません。接種回数も倍の4回になります。ポリオは感染しても発病しないことのほうが多いこともあり、今どうするかは悩ましいところですが、9月まで待つよりはどちらかのワクチンを受けたほうがよいと思います。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第695号 平成24年6月15日(金) 掲載

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