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院長コラム

Vol.79 「お客様は神様です」の真意

 忠臣蔵の季節です。私のお気に入りは、故三波春夫先生の「元禄名槍伝 俵星玄蕃」で今でもYouTubeでよく観ています。かかる折りしも1人の浪士が、雪をけたてて、サクサクサクサク…、「先生!」、「おうッ、そば屋か!」のクライマックスは何度観てもしびれます。

 三波先生といえば、「お客様は神様です」というフレーズが有名ですが、この言葉が、「お金を払う消費者は神様なのだから大事にされるべきである」という主張を生み、「消費者は何をしても許される」という風潮に発展させたと言ってもよいのではないでしょうか。

 ところが「三波春夫オフィシャルサイト」によると、三波先生の真意は以下のようなものです。「歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って、心をまっさらにしなければ完璧な藝をお見せすることはできないのです。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。だからお客様は絶対者、神様なのです。」つまり、客席にいる聴衆を前にステージに立つ演者としての決意を示した言葉なのです。ところが、お笑い芸人がこのフレーズを流行らせたおかげで、商店や飲食店の客である消費者が、自分は絶対的な神であるという意味で使うようになってしまいました。三波先生もこの言葉の流行には戸惑っていたようです。お店で「責任者を出せ!」という光景は珍しくなくなりました。消費者としても己を神様と勘違いしないようにと自戒を込めて思います。

 困ったことにこの風潮は医療や教育の現場にも影響を与え、本来消費者ではないはずの患者や父兄の中に、とんでもない勘違いをするクレーマーを生み出してしまいました。医療の現場に市場原理を持ち込むことがどれほど愚かであるかは、何度も書いた通り米国の現状を見ると明らかです。お金の多寡によって受ける医療の質が大きく左右されるのはもちろんですが、社会全体の医療に関わるコストも増大させるという皮肉な結果をもたらしました。金を払っている自分を満足させるのが君たちの使命だと思う人達と、患者さんをお客様とおだてて少しでも多くの金を手にしようと思う人達との間でなされる医療は、結局皆を不幸にするのです。診察室から出る時に医者から、「お大事に」とではなく、「毎度ありがとうございました。また、お越しください」と言われたいですか?

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第707号 平成24年12月15日(土) 掲載

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