昨年の交通事故死者が4,451人で12年連続減少と警察庁から発表されました。シートベルトの義務化、車の安全性能の向上、飲酒運転の厳罰化などが貢献しているのでしょう。喜ばしいことですが、厚生労働省が行っている人口動態調査によると、平成23年の交通事故死者は6,741人で、警察庁発表の4,612人の約1.5倍です。このような差が生じる原因は交通事故死の定義が異なるからです。警察庁が「事故発生から24時間以内に死亡したもの」であるのに対して、厚労省は「原死因が交通事故であるもの」となっています。つまり、交通事故から2日以上経って死んだ人は、警察庁の統計には反映されないのです。
一方、冬に多いのが入浴関連死です。平成23年の人口動態調査では「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」による死者は5,063人ですが、半数が12〜2月に起こり、約90%が65歳以上で、約半数は80歳以上の高齢者です。ところがこの統計にも問題があります。入浴中に死ぬのは溺死だけではありません。暖かい居室から寒い脱衣所で服を脱ぎ、熱い浴槽に入ることで、血圧が上下して、心筋梗塞や脳卒中を起こすことがあります。そのような場合には死亡診断書には「心筋梗塞」や「脳出血」などと記載され、統計上は病死になるので「溺死及び溺水」には含まれませんが、入浴が死亡に関連していることは明らかです。消防庁のデータを基に入浴関連死を推計し、全国で年間に1万7千人の死者が出ているという研究が先ごろ発表されました。少なくとも交通事故死よりは入浴関連死のほうが多いことは間違いないでしょう。
庄内保健所では「庄内41℃(よい)ふろジェクト」を進め、YouTubeで4本の動画を公開しています。その中で簡単にできる予防法が紹介されています。@体調が万全でない場合は入浴しない、A居間と脱衣所・浴室の温度差をなくす、B湯の温度は41℃以下、C入浴前後に水分補給、D家族からの声かけ、E半身浴、F上がるときはゆっくりと。保健所長の松田徹先生は、入浴文化を大切にしながら高齢者を死に至らしめないために、入浴事故の実態や課題を周知し、住環境での断熱性や気密性を高めることの重要性を強調しています。入浴関連死が交通事故死より多く、しかも増え続けていることを考えると、その対策は交通事故死を減らすのと同等の労力をかける価値がありそうです。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第709号 平成25年1月15日(火) 掲載
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