新庄・最上地域の医療拠点として地域の皆様のお役に立ちたい

ホーム > 院長コラム > Vol.97 大きいことはいいことか?

院長コラム

Vol.97 大きいことはいいことか?

 11月25日号の徳洲新聞の直言で、特定医療法人沖縄徳洲会副理事長である安富祖(あふそ)先生は「今回の事態を招いたことについては、猛省が求められます」と書いておられます。執行部の中でこれまで聞けなかった言葉ではありますが、長い直言の中でたった2行しか触れられていません。何に対して猛省する必要があるのかを、なぜ字数を割いて語ってくださらないのでしょうか。我々が反省すべきなのは、徳田虎雄氏に甘えていたことなのでしょうか。そうではないはずです。

 他にも疑問がたくさんあります。「沖縄の病院の職員に動揺はありません」と書かれていますが、本当でしょうか。現場の人間がどのように感じているのかを本音で聞いておられるのでしょうか。私の病院の職員は少なからず動揺しています。家族や友人も心配しているが、徳洲会は大丈夫なのかという疑問を私はぶつけられます。このような文章を書く一つの理由は、そのような不安を少しでも減らすことができればと願ってるからです。安富祖先生、当院と違って沖縄の病院はリーダーが素晴らしいから動揺していないのでしょうか、それとも、動揺していても顔にも言葉にも出さない(出せない)のでしょうか。

 安富祖先生によると、徳洲会グループは職員の採用も順調だそうです。もともと当院は入職者が少ないので、影響の有無は判断できませんが、退職者が出るのは早くて冬のボーナス後、実質的には年度替わりでしょう。今の時期に判断するのはあまりに早計です。それでも医師は、徳洲会に来るメリットがあれば、研修医に限らず入職するでしょう。問題は、看護師です。毎年何十人もが入れ替る大規模病院では、退職者は例年以上、入職者は例年以下になる可能性は高いと思います。そんな甘い見通しでよいのですか、安富祖先生。

 このような事態に陥った原因は色々考えられるでしょうが、私は「組織の巨大化」があると思います。今回の報道で、若き日の徳田虎雄氏が、「日本中に総合病院を作りまくるんや!」と熱く語っている姿を何度も見ました。その結果、全国に66病院ができ、27000人の職員を抱える巨大医療グループに成長しました。グループ全体では年間で百億円単位の経常利益があります。徳洲会の創成期には、「どんぶり勘定」も許されたでしょうが、これだけの巨大化したグループではそのようなことが許されるはずがありません。まして、医療は公益性の高い分野です。徳田商店なら許されることが、徳洲会グループでは許されない、それが創成期を知る人や徳田ファミリーには分かっていなかった、だから組織の私物化が起こり、後継者の育成を怠ってきたと私には思えます。

 物理に「慣性の法則」というものがあります。止まっている物体に力を加えなければそのまま止まり続け、動き続けている物体に力を加えなければ、そのまま動き続ける(等速直線運動をする)というものです。創成期に徳洲会を大きくし始めた時には、ものすごいエネルギーが必要だったでしょう。だからこそ、その時に苦労を共にされた方々が、虎雄氏や徳洲会という組織に特別な思い入れを持つことは想像に難くないことです。しかし、組織が膨張し始めると、惰性で大きくなることは可能です。実際、私が徳洲会に関わり始めてからは、新病院は次々にできたように思います。もちろん簡単なことではなかったでしょうが、少なくとも創成期ほどのエネルギーは必要なかったはずです。

 巨大化したために、一括大量購入することが可能になり、大きな節約効果がありました。しかし、そのことがMS法人の不明朗な会計処理を生み出したとも言えます。離島での病院建設は、医療難民を減らすことに貢献しただけでなく、雇用も生み出しました。しかし、そのことが虎雄氏や徳洲会への過度な帰属意識を生み出したとも言えます。これらは全て光と影であり、全て否定する気はありませんが、影の部分に向き合わないのは如何なものでしょう。最新の徳洲新聞では、佐藤専務が、「今ある負の部分の刷新に向け、委員会の立ち上げに鋭意努力しています」と書かれていますが、何が負の部分なのかについては全く述べられていません。

 今の私たちに求められていることは、負の部分を明らかにして、何がこのような問題を引き起こした本質なのかを見つめ、それを正すことではないでしょうか。9月17日以降、徳洲会グループの対応はそれに逆行するものでした。その結果、失ったものは決して少なくないと思います。世間でのイメージの低下が、本業の医療へ影響することは避けられないと思います。国会では特定秘密保護法案が可決されそうですが、徳洲会グループにはすでにこの決まりがあるのでしょうか。それとも事実を開かせないような「大人の事情」があるのでしょうか。

 透明性ある組織へ生まれ変われるかが、徳洲会の生き残りを懸けた喫緊の問題だと私は考えます。

院長 笹壁弘嗣

平成25年12月6日(金)

・過去に新庄朝日等に掲載されたコラムがご覧いただけます。