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院長コラム

Vol.103 なぜ看護師が不足し紹介ビジネスが栄えたか?

 厚労省の発表によると、有効求人倍率(求職者一人に対する求人数)が、1.03と6年ぶりの高水準になりました。とは言っても就職難の時代です。その中で有効求人倍率が2.8を超える職種があります。看護師です。10年前は1.3程度でしたが、倍以上に伸びました。看護師数が減少した事実はないので、求人が倍増したということです。その大きな転機が、平成18年の診療報酬の改定で導入された「7対1入院基本料」です。入院患者さん7人に対して常に看護職員が1人以上いるとことが必要で、それまでの最高の配置10対1より診療報酬が多く支払われることになりました。これを機に看護師の採用競争が始まり、雇用条件や福利厚生のよい大病院に看護師が集中し、中小の民間病院は深刻な看護師不足に陥りました。

 7対1の病床は、2〜3万という国の予想に反して、36万あります。医療費抑制の流れの中で病院が生き残っていくために、より診療報酬の高い検査や手術を導入する傾向にあります。それと同じことが、看護の分野にも浸透したのです。国は必要以上の基準を取ることが医療費の増大に繋がっているとして、今年4月の診療報酬改定で取得条件を厳しくして9万床まで減らそうと計画しています。

 看護師の獲得競争に伴って繁栄したのが紹介業です。1月6日付け朝日新聞一面の「看護師紹介250億円市場」という見出の記事によると年間約15万人の就職・転職者のうち4万人前後が紹介業者を利用しており、契約成立に伴って約100万円の紹介料が業者に支払われるそうです。都道府県には無料で紹介を行う看護協会がありますが、こちらを利用する人は1万人余りで、民間の細やかなサービスには対抗できないようです。実際、契約が成立すると高額の「お祝い金」が業者から看護師に支払われることもあるようです。業者は正当な経済活動を行っているので責められないのですが、この原資は診療報酬や税金や窓口負担金であるということを考えると、医療費が本来の目的以外のところへ少なからず使われていることは軽視できません。

 医療の質を上げるために導入されたシステムが、看護師不足と人材紹介ビジネスの隆盛という行政側が意図しなかった結果を招きました。医療側は、これまでコストの上昇と考えていた看護師獲得が、報酬アップに繋がることで行動を変えました。行政はその動きを読めず、業者はビジネスチャンスを見つけ成長したのです。質を上げることはコストがかかるという大原則を踏まえながら、そこに市場原理を持ち込まないことは至難の業です。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第735号 平成26年2月15日(土) 掲載

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