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院長コラム

Vol.115 受動喫煙はゼロにできますか?

 吉村知事は、受動喫煙防止のために罰則付きの条例を制定する意向でしたが、昨年12月の山形県議会でこれを断念し、代わりに「やまがた受動喫煙防止宣言」を策定する方針を表明しました。神奈川と兵庫に続いて、東北初の条例制定を目指してましたが、タバコ業界や飲食業者らの反対が影響したのかもしれません。

 受動喫煙の有害性については、厚生労働省のホームページに、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患と肺癌で死ぬ人が年間6800人とあります。また、WHO(世界保健機関)の資料を当てはめると、受動喫煙が原因で毎年2〜3万人の日本人が死亡していると推計されます。世界で初めて受動喫煙を問題視したのは、国立がんセンターが1980年代初期に行った疫学調査です。夫が喫煙者の場合、非喫煙者の妻が肺癌になる確率が1.3倍になり、腺癌という組織型に限ると、夫が1日20本未満では1.7倍、20本以上では2.2倍になるというものでした。この研究には異論もありますが、受動喫煙が健康へ悪影響を及ぼすことは間違いないでしょう。

 受動喫煙で重要なのは濃度と暴露時間です。狭い閉鎖空間で数人が吸っている環境に毎日長時間いることは深刻な害をもたらす可能性が高くなりますが、屋外で数メートル離れた人がタバコを吸っているのは問題にならないでしょう。米国公衆衛生局の論文には、受動喫煙には安全無害なレベルはないと書かれていますが、差はあるはずです。受動喫煙をなくすために、法律で禁止しても禁酒法と同じように、地下に潜って一層複雑な問題を引き起こすでしょう。ゼロリスクを目指す労力は膨大で、かえって身体に悪い気さえします。私がたばこを吸わないのは、身体のためではなくうまいと思えないからです。健康であることを最優先に生きるのは非常に不健全です。

 喫煙者に望むことは、マナーを守ってほしい、ただそれだけです。妊婦は禁煙すべきですし、妊婦や子供のいる閉鎖空間での喫煙は問題ですが、極端な受動喫煙防止にも賛同できません。タバコも酒も嗜好品で、害も益もあります。急性アルコール中毒やアルコール依存症を診ていると、実害は酒のほうが強い気がします。あまり喫煙者を追い詰め過ぎないほうがよいのではないでしょうか。最近では「敷地内禁煙」を掲げる病院が増えていますが、その前の公道で、職員や患者さんが集まって喫煙をしている光景は実に滑稽です。タバコ税は喫煙者が周りに迷惑をかけずに吸える環境づくりのためにこそ使うべきです。喫煙者が駆逐される社会よりも、喫煙者と共存できる社会のほうが私は好きです。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第759号 平成27年2月15日(日) 掲載

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