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院長コラム

Vol.119 抜本的改革がもたらすもの

 医療保険改革関連法案が可決され、患者申出療養(混合診療)が来年度から実施されることになりました。混合診療は今のところ原則禁止されているので、保険診療と保険外診療を同時に受けると、保険診療分も含めて全て自費になりますが、解禁されると保険診療分の窓口負担は3割以下というルールが適用されます。患者思いの政策のようですが、大きな問題があります。

 個室料金や歯科診療などに限って認められていた混合診療は、1996年に橋本内閣に設置された「規制改革会議」で全面解禁が強く求められ、2006年に始まった保険外併用療養制度で例外的に「評価療養」と「選定療養」が認められました。前者は高度で新しい医療で将来保険診療に組み込むかどうか評価するもので、昨年度は174億円、5年間で3倍に伸びています。後者は差額ベッドや予約診療など将来も保険診療にしないものです。

 患者申出療養では患者が未承認の新薬や医療機器による治療を望めば、指定された臨床研究中核病院と協力して申請を行い、その治療が前例のないものであれば、原則として6週間で国が有効性を審査し、前例のある場合は、原則2週間で中核病院が判断します。実際の治療は各地域の医療機関や診療所でも受けられます。

 キャッチフレーズは、「難病患者の願いをかなえるために」ですが、難病患者の願いは、混合診療ではなく適正な医療が保険診療で受けられることです。歯科の保険外診療の多くが、時を経ても保険診療に移行されていないことからも分かるように、この制度では新規の高額な医療は保険外に留めておく傾向があります。その結果、公費負担の増加が抑制できるだけでなく、医療機関が増収に向かえば、診療報酬の引き下げも可能になります。これが財務省の狙いです。

 企業にも多大なメリットが有ります。製薬メーカーは、新薬を売り込みやすくなるだけでなく、安全確認や治験の手間も減ります。保険会社は、私的な医療費負担の増加に備えるために、混合診療を対象にした医療保険を売り出そうと手ぐすねを引いて待っているはずです。

 結局、伸び続ける医療費の公私のバランスを変えることで、医療が成長戦略として市場に上がるという社会保障制度の抜本的な改革なのです。政治家も国民も「抜本的」という言葉が大好きですが、それがもたらす害悪を考えるべきです。以前お話した「効果は少ししか違わないが値段は50倍」という薬を保険診療に含めるかどうかは大事な問題で、慎重に検証しなければなりませんが、混合診療解禁でまとめて解決するのはあまりに乱暴な話です。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第767号 平成27年6月15日(月) 掲載

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