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院長コラム

Vol.122 医療被曝に鈍感すぎませんか

 原発事故以来、放射線の被曝への関心が高まりましたが、医療分野での被曝に対しては、まだ認識が不足しています。近藤誠氏の著書「日本は世界一の医療費爆大国」での事実に基づいた指摘は的を射ています。

 被曝量は、検査によっても異なり、同じ検査でも器械によって異なり、同じ器械でも体格などの条件によって異なるので、自分が被曝した量を正確に知ることは困難です。人体に安全な被曝は1mSv(ミリシーベルト)以下でしたが、原発事故以降は100mSvまでは許容されています。この妥当性はさておき、お腹のCT(コンピューター断層撮影)検査では1回で20mSvを超えることが珍しくありません。造影剤を使ってもう一度撮ると被曝量は2倍になります。これを年に2回受けると、医療従事者の許容被曝量である50mSvを超えてしまいます。我が国には人口一万人あたり一台程度のCT装置があり、2位のオーストラリアの倍以上です。国民皆保険制度のおかげで誰もが簡単に受けられるので、日本人の医療被曝が世界一というのは当たっているでしょう。

 被曝で心配なのは癌の発生です。2004年にランセットという医学雑誌に掲載された論文によると、日本では癌全体の3.2%が診断用X線が原因であるとされています。これは、ヨーロッパ諸国の0.6〜1.8%に比べて群を抜いて高い数字です。現代に当てはめると3万人近くが検査によって発癌していることになります。特に問題なのは感受性が高い小児です。2012年に英国・米国・カナダの合同チームが行った研究では、CT検査を数回受けた子供は、脳腫瘍や白血病になる危険性が数倍になるという結論でした。子供が頭を打って病院に連れてこられると、問診や診察よりとにかくCT検査をやってくれという親御さんが珍しくありません。受傷機転が穏やかで、意識障害がなく、診察で異常がない場合は、様子を見たほうがいいでしょうと言っても聞き入れてくれない親もいます。こちらも絶対大丈夫と保証できるのかと言われると、撮らざるを得なくなります。あらゆる医療行為には危険が伴います。それに見合う利益があるかを見極め説明するのが医療者の役目ですが、医療の受け手もリスクに目を向けるべきです。

 中には明らかに危険に見合うだけの利益がないものもあります。検診車で受ける二つの検査ー胸部レントゲン間接撮影と胃のバリウム検査ーです。前者は病院で受ける直接撮影に比べて被曝が多い割に精度は低く、後者には記念撮影以上の意味はありません。どちらの検査も医者は受けていないはずです。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日 第773号 平成27年9月15日(火) 掲載

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