日本の医療の行方を大きく左右するのは、人口減少と高齢化と医療費抑制です。医学は進歩し続けますが、その恩恵を受ける人には何らかの制限をつけないと公的保険制度を中心とする医療システムが破綻することはこれまでも触れてきました。一方、圧倒的に需要が増えるのは、「高齢者をうまく死なせる医療」です。そこで最も活躍する職種は、医者ではなく看護師です。20年後に最も活躍している医療職は看護師だと私は予言します。
高齢者が穏やかに死を迎えるのに必要なのは、高度な専門知識や最新の技術より人間らしい思いやりです。患者や家族に対する看護師の優しさは、医者では太刀打ちできません。排泄の援助や後始末、入浴や清拭などの清潔維持、食事介助などは生きる上で最も重要ですが、これを看護師や看護助手以上に上手くなおかつ嫌がらずにできる人種がいないのが第一の理由です。
医者に看護業務を教育することは手間がかかる割に実用性は低く、報酬を考えると割に合いませんが、看護師が医者の業務を行うことは現実になりつつあります。看護師が今以上に医療行為を行うと、医者の必要数は減り医療費は抑制できます。我が国でも「特定行為看護師」という資格を設け、昨年10月から研修制度が始まりました。厚生労働省は2025年までに10万人の養成を目指しています。これが第二の理由です。すでに米国では、1960年代からナース・プラクティショナー(診療看護師と訳されることが多いようです)という資格があり、創傷処置や麻酔の管理など様々の分野で従来の看護師ではできない医療行為をしています。
私の病院に在籍する日本看護協会認定の皮膚・排泄ケア看護師は、人工肛門のケアや褥瘡の予防・治療に大活躍しています。新庄最上地域で、褥瘡ケアに関して彼女以上の仕事ができる医者は私を含めていません。彼女にできないことは、生身の身体にメスやハサミを入れ、止血して縫合することです。彼女がそれを身につければ、鬼に金棒ですが、今の環境で私が二年も指導すれば十分可能です。
医療業界に限らず、一つ上のクラスの仕事ができる人が活躍する時代がきます。官僚はそのような人に報いる制度の再構築を考えているはずです。医者の既得権意識が、看護師の活躍を阻むでしょうが、世論の支持は得られないでしょう。むしろ本当に障害となるのは、看護業界の体質ではないかと危惧します。私の偏見であってほしいのですが、看護師の世界は医者の世界より権威主義で、恐ろしく効率の悪いところがあります。それさえなければ私の予言は当たるはずです。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第803号 平成28年12月15日(木) 掲載
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