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院長コラム

Vol.140 湿布薬を身体中に貼るのは止めましょう

 平成28年4月から湿布薬の処方が、1回の受診につき70枚までに制限されました。過剰な処方に厚生労働省が歯止めをかけたのです。医師が医学上の必要性を認めてその理由を記載すれば、70枚以上の処方も可能で、複数回または複数の医療機関を受診するという手もありますが、保険の支払基金が必要性を認めなければ、診療報酬が支払われないので、厚生労働省の意向に従う医療機関が多いと思います。

 古典的な湿布薬は、サリチル酸メチルなどの炎症を抑える物質に、メンソールや唐辛子エキスなどの刺激成分を加えて冷感や温感を与えるもので、冷湿布と温湿布に本質的な違いはありません。新しい湿布薬には、鎮痛効果の高い非ステロイド性抗炎症薬が含まれ、皮膚からも吸収されるので、たくさん貼ると血中の薬物濃度が上がり、同じ成分の内服薬を併用していると危険なこともあります。最新の湿布薬では1日に2枚以上貼ってはいけないものもあります。

 日本ではお馴染みの湿布薬ですが、欧米では効果が疑問視されているので、見かけることは稀で、保険診療で用いられることはありません。急性期の炎症や痛みを抑える効果はある程度期待できますが、慢性的な痛みに対する効果は「気持いい」以上のものはないと思います。湿布薬は、7割が70歳以上の高齢者に処方されています。高齢者以外には打撲や捻挫などに一時的に使用されるのに対して、高齢者には慢性の腰痛や関節痛に漫然と用いられることが圧倒的で、頻繁に処方されるのは、よく効くからではなく、副作用が少なく気持ちよくなれるからです。

 医療ジャーナリストの市川衛氏の調査では、湿布薬のコストは年間1300億円になります。40兆円を超える医療費全体から見ると、すべての湿布薬を保険対象から外しても節約効果は0.5%以下で、今回の措置でも数十億円程度と予想されています。ただ薬剤費が医療費に占める割合は約25%で、湿布薬以外にも効果が不確実なものが保険適応になっているものは数多くあります。ドラッグストアで売っている湿布薬は、医療機関で処方しているものとほぼ同等ですが、保険の自己負担が3割なら7割引きで買えるわけです。一方ドラッグストアで買った湿布薬は、金額と目的によっては所得税の医療費控除の対象にもなります。このようなことも含めて、効果が限定的である薬は個別に評価しなければならないのです。湿布薬を1回に10枚も貼る患者さんを見たことがありますが、得るものは少なく、有害なこともあり、医療費の無駄遣いをしていることは間違いありません。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日第809号 平成29年3月15日(水) 掲載

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