薬学部は平成18年度に4年制から6年制に変更されました。時期を合わせるように、平成15年以降に薬科大学の新設や薬学部の定員の増加が始まり、薬科大学と薬学部の数は平成14年の46から現在では70を超え、定員は8000人台から13000人台に急増しました。履修期間が1.5倍になったので大学にとっては、学費の収入は増えますが、医学部に比べると設備投資ははるかに少なくて済みます。新卒薬剤師の有効求人倍率が10倍を超えるため学生も集めやすく、私立大学の薬学部が新設や増員されたのは当然かもしれません。
今年の薬剤師の国家試験の合格率は約70%で、90%近い医師や看護師と比べると、かなり低いと言えます。新制度の卒業生が出てからの合格率は、60.88%と変動が大きいのが特徴で、受験者数の増加による質の変化(劣化?)が関係していると思います。現在の薬剤師数は約29万人で、過去20年間に11万人増加していますが、このほとんどが薬局に勤務しており、医療機関の勤務者は1万人も増えていません。その結果薬局と医療機関の割合は、20年前は33%対25%でしたが、今では55%対19%に開いてしまいました。
ちょうど20年前に医薬分業が推進され始めたので、この変化は政策によるものと考えられますが、問題はその中身です。開業医が1軒できると隣に調剤薬局が1軒できるのは日常茶飯事です。院外処方が増えると、医薬分業の優遇措置により利益も増えることが、この背景にあるとしか思えません。最大で6倍以上の負担増に見合う利益が患者にもたらされているでしょうか。調剤業務は効率化し、粉薬の調合は過去のものとなり、専門家を必要としない作業になりました。今後は自動化も進むでしょう。薬剤師の専門性をどのように発揮させるのかを明確にしなければ、医薬分業は絵に描いた餅に終わってしまいます。
ドラッグストアで働く薬剤師が、病院の薬剤師よりも高額の収入を得やすいことも問題です。高度な専門性が要求される病院の薬剤師の待遇は改善されるべきですが、ドラッグストアの薬剤師を養成するために6年間の専門教育が必要でしょうか。医療費抑制が叫ばれる中で、このような職種は淘汰されると思います。
実態を伴った医薬分業を進めることと、高度な専門性を必要とする現場で働く人を大事にすること、この二点は早急に改善されなければなりません。医薬分業の本来の目的は、医療チームの一員として患者の生活の質を向上させることであり、4年制が増えた看護師より上位を確保して、6年制の医師と同等の圧力団体になることではないはずです。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第813号 平成29年5月15日(月) 掲載
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