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院長コラム

Vol.149 借金過払い金返還訴訟の次は?

 過払い金返還訴訟を多く手掛け、積極的なCMで知られる法律事務所が、事実と異なる宣伝を繰り返したとして、東京弁護士会から業務停止処分を受けました。この処分の適否はさておき、かつて華やかだった消費者金融に取って代わるように、10年くらい前からこのようなCMが巷に溢れたのは、苦しむ庶民を救うという大義名分以外に、弁護士が短い審理期間で高額の報酬を得られるという事実があります。

 司法制度改革により、弁護士数は10年間で約1.7倍に急増し、3万7千人を超えましたが、訴訟件数は民事も刑事も減少しています。さらに司法書士も条件付きながら民事訴訟に参入できるようになったため、弁護士は仕事の確保が大変になりました。そのような中で、平成21年の過払い金返還訴訟の件数は民事訴訟全体の60%以上を占め、返還された利息は6500億円に達しました。その後は減少しているものの、最近でも年間2000億円以上の利息が返還されています。この種の訴訟が急増したのは、平成18年に最高裁判決で、グレーゾーンの金利が違法とされてからですが、今後は時効により激減することが予想されます。この影響が医療分野に及ぶのではないかというのが私の心配の種です。

 医療訴訟件数は平成16年の年間1110件をピークに減少に転じ、その後は年間800件前後で推移してきましたが、2〜3年前から再上昇に転じる気配があります。医療技術が高度専門化し複雑になる一方で、危険がいっぱいであるにも関わらず、コストとの兼ね合いで現場は人手不足に苦しんでいます。また、医療を受ける側の権利意識は高まっています。医事紛争の大半は、医療者が故意に行ったものでありません。過失の軽重はあるでしょうし、被害者は救済されるべきですが、理不尽な要求もあります。

 医療者が訴訟を避けることを最優先に仕事をするようになって、一番被害を受けるのは患者です。訴訟リスクの高い現場に従事する者が減少することで、医療は受けにくくなり、保身のために無駄な検査が増えることで、放射線の被曝や検査の合併症は増え、医療費は増加します。賠償金や訴訟費用に備えるために、医療機関や医療者は米国のように高額の保険料を負担し、それは医療費に反映されます。結局、皆で手間と時間とお金をかけて、医療の質を落とし、国民の負担も増加させるのです。患者を助けたいという気持ちが萎えてしまった医療者から医療を受けたいと思いますか。これまで私は意気に感じて仕事を何とか続けてきましたが、それができない世の中がすぐそこまで来ているような気がしてなりません。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日第825号 平成29年11月15日(水) 掲載

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