裏口入学を巡る汚職事件を発端に、東京医科大学が女子学生の増加を抑制するために、女子の一次試験の点数を一律に減点していた事が発覚しました。このような措置は10年以上前から始まり、2010年に合格者に占める女性の割合が40%近くになってさらに強化されたようです。
医師は圧倒的に男性優位でしたが、近年女性が増え続けています。過去20年で二倍になり、比率も13.4%から21.1%になりました。40歳未満では3割以上を女性が占め、今後もこの傾向は強くなります。
子育て世代で女性医師の就業率が下がることは厚生労働省の調査でも明らかで、現場で働く若手から中堅が減ると困るという理屈には一理あります。また、診療科で女性の割合が高いのは、皮膚科・眼科・麻酔科・小児科・産婦人科で30%以上を占めますが、整形外科・脳神経外科・泌尿器科・外科では数%です。したがって、女性が増えると、特定の科の医師が不足するという心配もあります。
しかし東京医大のやり方は2つの点で間違っています。一つは秘密裏に行っていたことです。国公立大学と異なり、私立大学は学生の選抜過程で独自の基準を持つことは許されるはずです。多額の私学助成金が支払われているので、あまり極端なことはできませんが、たとえば一定の学力を満たしていれば多額の寄付金を出す学生を優遇することは問題ないと思います。そのかわり優秀な学生は授業料免除すればよいのです。現役の男子学生を優遇するのであれば、その理由を示した上で公表すべきです。
もう一つは女子学生を締め出すと、医師不足や診療科の偏りを解消できるかということです。男性医師も多忙で負担の多い診療科は敬遠します。医師の偏在は性別とは無関係だと私は考えます。女性の肉体的なハンディキャップは、テクノロジーの進歩でかなり解消されます。最近の若手医師を見ていると、妊娠・出産・育児に対するケアができれば、女性の方が可能性を秘めているようにさえ感じます。医療者同士や医療者と患者との関係をよくするのは、女性の方が優れていると思うからです。
それを示唆する面白い研究結果を紹介します。米国の急性期病院に入院した高齢者患者130万人の死亡率と再入院率を調べると、どちらも女性医師が担当するほうが低くなるというものです。米国でも女性医師に対する偏見があったのでそれを払拭するために行われた研究で、患者の重症度は同等に補正した結果です。男女差がないという予想に反して、女性の方が優秀だったのです。医療の質を上げるにはむしろ女子学生に加点する方がよさようです。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第843号 平成30年8月15日(水) 掲載
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