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院長コラム

Vol.161 その免疫療法は本物ですか

 本庶佑氏のノーベル医学生理学賞受賞は、免疫療法のイメージを大きく変えるかもしれません。免疫力を高めて癌細胞をやっつけると称して、高額な治療費を請求する怪しげな自費診療に使われていた言葉が、正しく理解されるという期待がある一方で、これ幸いと便乗商法が広まるのではないかという不安もあります。実際、テレビの人気キャスターが膀胱癌で膀胱を全摘すると公表した際にも、膀胱を残すためにそれまで免疫療法を試みたと述べているようですが、これは本物の免疫療法ではないはずです。

 本庶氏の功績は、Tリンパ球という免疫を担当する細胞の表面にあるタンパク質を、癌細胞がブロックすることで、生き残りを図ることを発見したことです。このタンパク質に対する抗体を反応させて、Tリンパ球が癌細胞を攻撃できるようにするのが免疫療法です。それを一般人にわかりやすく説明し、その上で、どのような病気にどの程度の有効性があり、副作用や医療費負担の問題まで掘り下げるのが、件のキャスターを含めたメディアの役割のはずです。怪しげな医療者にも、理解力不足の民衆にも問題がありますが、「私にはオプジーボは使えないんですか」という言葉が日本全国で発せられている責任の一端はメディアにもあります。

 オプジーボは、当初は悪性黒色腫という皮膚癌にだけ使用可能でしたが、肺癌の一部・腎臓癌・リンパ腫の一部などに適応が拡大し、最近は胃癌にも使えるようになりました(膀胱癌には適応はありません)。しかも悪性黒色腫以外では従来の抗癌剤が効かなくなったときにしか使用できません。これは、効果が従来の治療を凌駕するものではないからです。オプジーボが効果を示すのは2〜3割程度と考えられます。これは専門家からすると非常に高い数字ですが、逆に言うと7〜8割の人には効かないということです。副作用も、従来の抗癌剤より少ないですが、投与した患者の10%くらいに重いものが出ると言われています。最も多いのは甲状腺機能障害で全体の7〜8%に起こり、肺が硬くなり呼吸困難に陥る間質性肺炎も4〜5%に見られます。免疫に影響するせいか、劇症型の糖尿病や重症筋無力症なども起こることがあります。

 本庶氏の研究は臨床に応用され、なおかつ成果を挙げたため、ノーベル賞を授与されましたが、本来、基礎研究は役立つかとか金儲けとは無関係で、臨床応用されても有害無益な結果をもたらすことさえあります。情報過多の現代にあって、立ち止まって自分の頭で考えることが、メディアにも我々にも求められているのです。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日第849号 平成30年11月15日(木) 掲載

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