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院長コラム

Vol.162 インフル治癒証明書はお断りします

 厚生労働省は9月27日に行われた厚生科学審議会感染症部会で、今シーズンから職場や学校に対して、「医療機関に季節性インフルエンザの治癒証明書や陰性証明書発行を求めることは望ましくない」との見解を示すことを明らかにしました。インフルエンザにかかった人が、職場や学校に復帰する際のお墨付きを求めて医療機関にかかることを抑制することがねらいですが、もっと早く、もっと強く言うべきだったと思います。

 健康な人はインフルエンザにかかっても、ほとんどは1週間程度で自然に治ってしまいます。解熱して、症状がなくなれば2〜3日で感染力はほぼ消失します。そのタイミングで職場や学校に復帰すれば問題はないはずです。例外的に感染力が長引くことはあるでしょうが、100%の安全を求めれば社会生活は成り立たなくなります。インフルエンザに絶対にかからないようにするためには、人里離れたところに住み、人とも鳥とも接触しないことですが、現代社会では不可能です。インフルエンザの感染よりも優先されることがある以上、今のところインフルエンザとうまく共存する道を探すしかないのです。

 混み合っている外来に、病気が治った人がやって来るのは、診療側には迷惑な話ですが、本人にも有害無益です。A型インフルエンザの治癒証明を取りに来て、B型インフルエンザも一緒に持って帰るという笑えないようなことも起こりえます。陰性を証明するための検査の手間と費用も生じます。証明書発行は保険診療外のため出費も少なくありません。なぜこのような無意味なことが行われるのでしょう。豊かな社会の中で我々は、好ましくない事態が起きたとき、その原因が自分にはないことを証明することを最優先し、そのために生じる負の側面を考えられなくなっているのではないでしょうか。

 同時に我々は、リスクを引き受ける覚悟もなくなってしまいました。高齢者を集団で介護しなければ、現代の超高齢化社会は崩壊してしまいますが、そこでインフルエンザが蔓延したら死者も出ます。そのリスクを受け入れた上で、最小限にするために知恵を絞ることは重要ですが、そのためには時間とお金もかかります。インフルエンザの集団発生があれば、管理に問題があるはずだと取材を進め責任者を追求するマスコミのやり方では実りある対策は見つけることは困難です。管理側も責任回避の道を探すことを最優先にしてしまいます。完璧なシステムを作るよりも、今あるシステムをうまく運用するほうが、現実的には有用でコストも掛からないはずです。

院長 笹壁弘嗣

新庄朝日第851号 平成30年12月15日(土) 掲載

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