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院長コラム

Vol.171 少子化対策は地方の魅力ある共同体作りにかかっている 

 我が国の人口は2008年をピークに減少し始め、年間の減少数が40万人を超えました。都道府県別に見ると、増加しているのは大都市圏で、地方で増加しているのは沖縄だけです。中でも東京はダントツの増加率を示しており、まさに人口の首都圏への一極集中と言えます。ところが、内田樹編「人口減少社会の未来学」を読んでみると意外なことがわかりました。2010年から15年までの6年間に東京の人口は35.6万人増えているのですが、その1/3は65〜74歳の前期高齢者で、残る2/3は75歳以上の後期高齢者で、64歳以下の人口は3万人減少しているのです。人口の一極集中は、高齢者の一極集中だったのです。

 日本の人口が1億人を突破したのは1966年、前回の東京オリンピックの2年後です。この間に、14歳以下の人口比率は25.6%から12.7%に半減し、65歳以上の人口比率は6.3%から26.7%に著増し、少子高齢化が顕著になりました。高齢化を抑制することは困難ですが、少子化は是正することが可能です。「人口減少社会の未来学」の中で藻谷浩介氏は、次世代再生力という指標を使って少子化問題を解説しています。詳細は省きますが、これが100を超えているとその共同体は人口が増加するというものです。2015年の国勢調査で計算すると、全国平均では68になり、親世代の約2/3しか子供が生まれていないということになります。現在では出生数が年間100万人を切りましたが、その世代が親になると70万人の子供しか産まなくなるということです。

 この次世代再生力を都道府県別に見てみると、東京都は55と最下位です。確かに東京には地方から若者が移り住みますが、東京では子供が生まれ育ちにくいのです。自らの少子化を、地方から若者を奪って補ってきたけれど、それではまかなえないレベルになったのです。これを藻谷氏は自前で選手を育成できない在京球団が、他球団からFAで補ってきても結局選手層が薄くなることに例えています。次世代再生力は、沖縄が93でダントツの1位ですが、全体的に西高東低です。東北地方では山形が70と全国平均を唯一上回っていますが、全体的に低調です。100を超える自治体は沖縄を中心に40ありますが、意外なことに90以上の市町村の多くが離島や山間過疎地で、大都市の多くは低水準です。つまり、少子化対策が効果的にできるのは地方なのです。

 藻谷氏は、次世代を多く再生するためには、持ちたい人が持てるだけ子供を持てる社会構造にすることが解決策と述べています。必ずしも生む必要はなく、他人の子を育てる人が増えても構いません。そのためには子供を多く持つことによる負担が軽減される仕組みが必要です。また、同書で平川克美氏は、既婚者の出生数は減少していないことを指摘し、少子化は晩婚化の影響が強いので、早婚が困難であれば婚外子を持つ負担を減らすしかないと述べています。少子化の指標としてよく用いられる合計特殊出生率も東北地方は低迷しており、市町村別の100位以内に入っているのは原子力施設で豊かな財政を誇る青森県六ケ所村だけです。これを寒さや雪のせいにしてよいのでしょうか。高速道路やフル規格の新幹線を整備しても、大都市の若者(特に女性)を引きつけることはできませんでした。古い家族制度に決別して、地域の特性を生かして、若い女性が興味を持てる共同体づくりを目指すべきです。そのためには、新しい発想ができる人(特に女性)が政治家や官僚に必要です。お盆には都会に出た男たちが戻ってきて酒を飲み、その世話をするために、嫁や娘が奴隷のようにこき使われる家族に、若い女性が魅力を感じると思いますか。

院長 笹壁弘嗣

令和元年9月2日(月)

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